人材紹介サービスを利用する際、「違約金」という言葉を契約書で目にして不安を感じたことはありませんか。特に外国人材の採用を検討している企業では、採用後の定着率や契約内容について慎重になる必要があります。違約金は、契約違反があった場合などに、職業紹介会社と企業との間で発生する場合があります。
ただし、違約金および手数料に関しては、2025年4月からの法改正により、あらかじめ金額や発生条件などを契約時に分かりやすく書面や電子的手段で明示することが義務付けられました。こうした新しいルールを正しく理解しておくことは、トラブルの未然防止に繋がるでしょう。
本記事では、人材紹介における違約金の基本から、具体的な請求ケース、そして回避策まで解説します。企業の経営者や人事担当者が安心して人材紹介サービスを活用できるよう、実務で役立つ最新の情報をお届けします。
人材紹介の違約金とは
人材紹介における違約金とは、人材紹介会社と企業の間で締結した契約に違反した場合や、特定の条件が満たされた際に発生する金銭的な負担のことです。多くの場合、採用した人材が早期に退職した際の補償や、企業側の都合による採用取り消しなどが該当します。この仕組みを理解することが第一歩です。
違約金の目的は、人材紹介会社が投じた労力やコストを保護することにあります。求職者の検索から選定、面接調整、入社までのサポートという一連の流れの中で、相応の時間と人的リソースがかかるため、一定のリスクヘッジとして契約に盛り込まれるのです。ただし、すべての人材紹介契約に違約金が設定されているわけではありません。
参考:厚生労働省 労働者の採用を仲介した雇用仲介事業者を正しく把握しましょう
違約金が発生する仕組み
違約金が発生する仕組みは、契約書に明記された条項に基づいています。一般的には、採用した人材が入社後一定期間内に退職した場合、企業側に違約金が請求されるケースが多いです。この期間は「返金保証期間」とも呼ばれ、多くの人材紹介会社では30日から90日程度に設定されています。
具体的には、入社後すぐに退職した場合は手数料の全額返金、一定期間後は段階的に返金額が減少するという仕組みです。例えば、入社後1ヶ月以内であれば80%返金、2ヶ月以内なら50%返金といった形で規定されます。この返金制度があることで、企業側のリスクは一定程度軽減されますが、同時に人材紹介会社側の保護も図られているのです。
また、企業側の都合による採用取り消しや、求職者の個人情報を不適切に使用した場合等も、違約金の対象となることがあります。契約内容によっては、紹介された人材を直接雇用に切り替える際にも、別途手数料や違約金が発生する場合があるため注意が必要です。
手数料との違いを理解する
手数料と違約金は、どちらも人材紹介サービスに関連するものですが、その性質は大きく異なります。
この違いを明確に理解することが重要です。
手数料の相場は、採用した人材の理論年収の30%から35%程度が一般的です。例えば、年収400万円の人材を採用した場合、手数料は120万円から140万円程度になります。この金額は採用が成立した時点で確定し、正当なサービスの対価として支払われるものです。
一方、違約金は契約書に定められた特定の条件下でのみ発生します。例えば、内定を出した後に企業側が一方的に取り消した場合や、契約で禁止されている行為を行った場合などです。手数料はサービス利用の対価であり、違約金はリスク管理のために定める取り決めという違いを理解しておきましょう。
契約前に必ず確認すべき重要事項【チェックリスト】
契約トラブルを未然に防ぐためには、契約内容を事前に正確に理解しておくことが不可欠です。人材紹介会社から契約書を受け取ったら、以下のチェックリストを活用し、重要事項に漏れがないか確認しましょう。
確認カテゴリ | 主なチェックポイント | 補足・注意点 |
---|---|---|
手数料関連 |
| 想定年収を正確に伝えることが、後のトラブル防止に繋がります。 |
違約金関連 |
| どのような行為が「契約違反」とみなされるのか、具体例を確認しましょう。 |
返金規定関連 |
| 「企業側の責任による退職」と判断される条件は特に重要です。曖昧な場合は必ず質問しましょう。 |
その他重要事項 |
| 契約終了後も一定期間、紹介人材を直接雇用できない場合があるため注意が必要です。 |
外国人材特有の事項 |
| どちらが責任を負い、費用を負担するかが明記されているかを確認しましょう。 |
不明な点や曖昧な表現がある場合は、契約を結ぶ前に必ず担当者に質問し、回答を記録に残しておくことが重要です。口頭での説明だけでなく、契約書にどう記載されているかを正として判断しましょう。
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違約金が請求される主なケース
違約金が実際に請求されるケースは、契約内容によって異なりますが、いくつか典型的なパターンが存在します。これらを事前に把握しておくことで、予期せぬトラブルを回避できるでしょう。
以下では、実務上よく発生する3つの主要なケースについて詳しく解説します。
参考:厚生労働省 民間人材サービス(職業紹介、募集情報等提供)を利用する際の留意点
早期退職による請求
最も多いケースが、採用した人材の早期退職による違約金請求です。ただし、この場合は企業側が違約金を支払うのではなく、むしろ人材紹介会社から手数料の返金を受けるケースが一般的です。返金制度は「返金保証」や「リプレイスメント保証」と呼ばれ、多くの人材紹介会社が採用しています。
返金の割合は、退職までの期間によって段階的に変わります。例えば、入社後14日以内の退職であれば手数料の100%返金、15日から30日以内なら80%返金、31日から60日以内なら50%返金といった具合です。この期間設定は人材紹介会社によって異なるため、契約時に必ず確認しましょう。
注意すべきは、退職の理由によって返金の対象外となる場合がある点です。企業側の労働環境や待遇に問題があった場合、あるいは契約時に提示した条件と実際の業務内容が大きく異なっていた場合などは、返金を受けられない可能性があります。また、返金を受けるためには、退職の事実を速やかに人材紹介会社に連絡することが、契約上の義務として求められます。
契約違反による請求
契約書に記載された禁止事項に違反した場合、企業側に違約金が請求されることがあります。代表的な例は以下の通りです。
- 個人情報の目的外利用:別求人への案内や営業活動への流用など
- 直接契約(引き抜き行為):人材紹介会社を介さない候補者との契約
- 報告義務違反や虚偽報告:内定取り消しの未報告など
契約違反による違約金は、手数料の50%から100%程度に設定されていることが多く、金額も大きくなる傾向があります。
採用取り消しによる請求
内定を出した後に企業側の都合で採用を取り消した場合、違約金が発生するケースがあります。特に、求職者が前職を退職した後や、他の内定を辞退し求職活動を終えた後に採用取り消しが行われた場合は、企業側の責任が重くみなされます。違約金の額は、手数料の30%から50%程度に設定されていることが一般的です。
採用取り消しの理由によっても、違約金の有無や金額が変わります。企業の業績悪化や組織再編など、やむを得ない事情がある場合は、違約金が減額されたり免除されたりすることもあるでしょう。一方、単に「他に良い候補者が見つかった」という理由での取り消しは、全額の違約金が請求される可能性が高くなります。
外国人材の採用では、特に注意が必要です。採用予定だった人材のビザの申請準備を進めている段階で採用を取り消すと、求職者に大きな損害を与えることになります。この場合、違約金だけでなく、ビザ申請にかかった実費の補償も求められる可能性があります。採用取り消しは企業の信用にも関わる問題ですので、内定を出す前に慎重な検討が不可欠です。
人材紹介の違約金相場
違約金の金額は、契約内容や発生した状況によって大きく異なりますが、一定の相場や計算方法が存在します。適切な金額設定かどうかを判断するためにも、業界の標準的な水準を知っておくことが重要です。
次のセクションでは、違約金の相場と具体的な計算方法について解説します。
一般的な相場と計算式
違約金の相場や計算方法は、発生ケースによって異なります。まずは、代表的なケースごとの違いを以下の表で確認しましょう。
発生ケース | 種別 | 相場 (手数料に対する割合) | 計算式(例) | 具体例 (手数料150万円の場合) |
---|---|---|---|---|
採用取り消し | 違約金 | 30%~50% | 手数料 × 50% | 75万円の支払い |
契約違反 | 違約金 | 50%~100% | 手数料 × 100% | 150万円の支払い |
早期退職 | 返金 | 段階的に変動 | 手数料 × 返金率 | 120万円の返金(※1) |
(※1)入社後15日で退職し、返金率が80%の場合
このように、違約金の相場は基本的に支払った手数料を基準に算出されます。最も多いパターンは、手数料の30%から100%の範囲内で設定されるケースです。
例えば、年収400万円の人材を採用し手数料として120万円を支払った場合、違約金は36万円から120万円の間で変動します。具体的な計算式は契約書に明記されていますので、必ず確認しましょう。
業界や職種による違い
手数料率やそれに伴う違約金の額は、採用難易度に応じて業界や職種ごとに変わる傾向があります。
業界/職種 | 手数料率の目安 | 特徴/採用難易度 | 違約金の傾向 |
---|---|---|---|
IT/エンジニア職 | 35%前後 | 専門性が高く、採用難易度が高い | 高額になりやすい |
事務職/販売職 | 25%~30% | 比較的採用しやすい | 控えめな設定が一般的 |
外国人材(専門職等) | 40%前後 | 在留資格手続きや言語サポート等が付随 | 手数料率に比例して高額 |
特に専門性の高い職種や、採用難易度の高いポジションでは、人材紹介会社が候補者の選定にかける労力が大きくなるため、手数料率や違約金も高めに設定されることが多いです。
例えば、年収600万円のエンジニア(手数料率35%)を採用した場合、手数料は210万円となり、違約金も100万円以上になるケースがあります。業界や職種による違いを理解した上で、自社の採用ニーズに合った人材紹介会社を選ぶことが大切です。
返金規定の期間設定
早期退職の際に適用される返金規定は、入社後の経過日数によって返金率が段階的に設定されているのが一般的です。
入社後の経過期間 | 返金率 |
---|---|
~14日以内 | 100% |
15日~30日以内 | 80% |
31日~60日以内 | 50% |
61日~90日以内 | 30% |
91日以降 | 0% |
上記はあくまで一例であり、期間設定は人材紹介会社によって異なります。一般的には30日から90日の範囲で保証期間が設けられており、この期間内に採用者があっという間に退職してしまった場合、段階的に手数料の返金を受けられます。期間が長いほど企業にとっては安心材料となります。
多くの企業では3ヶ月程度の試用期間を設けているため、返金保証期間もそれに合わせて90日に設定されているケースが多いです。特に外国人材の場合は定着に時間がかかる可能性を考慮し、より長期の保証期間を提供している会社もあります。契約前には、返金期間と自社の試用期間を照らし合わせて確認しましょう。
違約金トラブルの事例
実際の現場では、契約内容の認識不足やコミュニケーション不足から、違約金に関するトラブルが発生することがあります。具体的な事例を知ることで、同じような問題を未然に防ぐことができるでしょう。
ここでは、実務で起こりやすい3つのトラブル事例の概要をご紹介します。
認識の相違から生じた事例
ある製造業の企業では、人材紹介会社を通じて外国人エンジニアを採用しました。しかし、採用者が入社後1ヶ月で退職してしまい、企業側は返金を求めたものの、人材紹介会社から「企業側の労働環境に問題があった」として返金を拒否されたのです。
契約書の中には「企業側の責任による退職の場合は返金対象外」という条項がありましたが、企業側はこの内容を事前に十分に理解していませんでした。調査の結果、残業時間が契約時の説明と大きく異なっていたことが判明し、企業側の落ち度とみなされたのです。最終的に、返金は受けられず、手数料の150万円が完全に失われました。
このケースから学べるのは、契約書の細かな条項まで確認する重要性です。特に「返金対象外となる条件」については、具体例を挙げて人材紹介会社に確認しておくべきでした。また、採用時に提示した労働条件を守ることも、企業として当然の義務であると再認識する必要があります。
契約内容の確認不足による事例
IT企業のケースでは、採用依頼をしていた外国人プログラマーと入社前に直接連絡を取り、人材紹介会社を通さずに雇用契約を結んでしまいました。これが契約違反とみなされ、本来支払うはずだった手数料の2倍にあたる300万円の違約金を請求されるトラブルに発展しました。
企業側は「採用前だから問題ない」と考えていましたが、契約書には「紹介後1年間は人材紹介会社を通さずに直接雇用してはならない」という条項が明記されてたのです。この条項を見落としていたため、高額な違約金を支払うこととなりました。
さらに問題を複雑にしたのは、候補者本人も人材紹介会社への登録時に契約内容の一部しか理解しておらず、直接雇用に応じてしまった点です。このトラブルは最終的に調停に持ち込まれ、違約金は減額されたものの、企業の評判に傷がつく結果となりました。契約書の全条項を読み込み、疑問点は契約前に解消しておく重要性を示す事例と言えるでしょう。
トラブルが解決した事例
一方、適切な対応によってトラブルを回避できた事例もあります。ある小売企業では、採用した外国人販売員が入社後2週間で退職してしまいました。企業側はすぐに人材紹介会社に連絡し、退職の経緯をまとめた資料も作成の上、詳しく報告しました。
退職理由は採用者の体調不良であり、企業側には落ち度がありませんでした。人材紹介会社は状況を確認した上で、契約通りに手数料の100%を返金するとともに、代替となる候補者を無料で紹介する提案をしてくれました。企業側はこの提案を受け入れ、1ヶ月後には新しい人材の採用に成功しました。
このケースが円滑に解決した理由は、企業側が契約内容を正しく理解し、問題発生時に速やかに連絡したことにあります。また、退職に至った経緯を詳細に記録し、人材紹介会社に提供したことも、スムーズな返金につながりました。トラブルが発生した際は、隠さずにすぐ相談することが、最良の解決策につながることを示す好例です。
近年、日本企業における人手不足は深刻化し、多くの業種で外国人材の採用が現実的な解決策となっています。特に製造業、IT、サービス業など幅広い分野で、外国人の求人需要は年々高まっています。一方で、採用方法や手続き、社内の受け入れ環境などの課題も[…]
違約金トラブルを回避する方法
違約金トラブルを未然に防ぐためには、契約前の準備と契約後の適切な対応が不可欠です。
ここでは、信頼できるパートナー選びから採用後のフォロー体制まで、企業側が実践すべき具体的な回避策をご紹介します。これらを行うことで、安心して人材紹介サービスを活用できるでしょう。
人材紹介会社の選び方
信頼できる人材紹介会社を選ぶことが、トラブル回避の第一歩です。まず、人材紹介事業の許可番号を持っているか確認しましょう。厚生労働大臣の許可を受けた正規の事業者であることが、最低限の条件です。許可番号は、会社のウェブサイトのホーム画面や名刺等に記載されています。
次に、実績と評判を調べます。同業種や同規模の企業への紹介実績があるか、外国人材の紹介に強みがあるかなどを確認しましょう。可能であれば、実際にその人材紹介会社を利用した企業の担当者に話を聞くことをお勧めします。インターネット上の口コミも参考になりますが、情報の真偽を見極める必要があります。
担当者の対応も重要な判断ポイントです。質問に対して誠実に答えてくれるか、デメリットやリスクについても正直に説明してくれるかを見極めましょう。契約を急がせる、契約内容の説明が不十分、質問をはぐらかすといった対応が見られる場合は、注意が必要です。複数の人材紹介会社を比較検討し、自社に最も適した会社を選ぶことが大切です。
参考:
厚生労働省 職業紹介サービスを利用する際のチェックポイント
厚生労働省 人材サービス総合サイト
採用後のフォロー体制
採用後のフォロー体制を整えることも、違約金トラブルの回避につながります。まず、採用した人材が職場に定着できるよう、適切なオンボーディングを実施しましょう。特に外国人材の場合は、言語や文化の違いに配慮したサポートが必要です。
定期的な面談を通じて、採用者の状況を把握することも重要です。入社後1週間、2週間、1ヶ月といった節目に面談を行い、困っていることや不安なことがないか確認します。問題が小さいうちに対処することで、早期退職を防ぐことが出来るでしょう。
万が一、採用者が退職を希望した場合は、すぐに人材紹介会社に連絡します。退職の理由、時期、経緯を正確に報告し、返金手続きについて相談しましょう。また、退職に至った原因を分析し、次の採用に活かすことも大切です。人材紹介会社との良好な関係を維持することで、トラブルを未然に防ぎ、今後の採用活動もスムーズに進められます。
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まとめ|違約金リスクを理解して適切な人材紹介を
人材紹介における違約金の概要は、契約内容を正しく理解し、適切に対応することでトラブルを回避できます。違約金が発生する主なケースは、早期退職、契約違反、採用取り消しの3つであり、それぞれに明確なルールと相場が存在します。
契約前には、手数料、返金規定、違約金の条件を詳しく確認しましょう。契約書の全条項に目を通し、不明な点は必ず質問して解消することが重要です。また、信頼できる人材紹介会社を選ぶことで、万が一のトラブルにも適切に対応してもらえます。
採用後は、フォロー体制を整えて定着率を高める努力が必要です。特に外国人材の場合は、言語や文化のサポートを丁寧に行うことで、早期退職のリスクを減らせます。問題が発生した際は、隠さずにすぐ人材紹介会社に相談することが、円滑な解決につながるでしょう。
違約金のリスクを過度に恐れる必要はありません。契約内容を理解し、適切な準備と対応を行えば、人材紹介サービスは企業の採用活動を強力にサポートしてくれる心強いパートナーとなります。
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