ビルや商業施設の清掃・維持管理を担うビルクリーニング業界は、今や深刻な人手不足に直面しています。高齢化による労働力の減少、若年層の就業離れなどが原因で、業務の質と量を維持するのが困難な状況が続いています。
こうした中で注目されているのが、「特定技能」制度を活用した外国人材の受け入れです。2019年に新設されたこの制度は、一定の専門性を有する外国人が在留資格を得て働ける仕組みであり、ビルクリーニング分野も対象業種のひとつです。
本記事では、「特定技能ビルクリーニング分野」について、制度の概要、試験情報、受け入れ要件、採用時の注意点、そして成功事例までを幅広くご紹介します。
「何から始めればいいか分からない」「制度が複雑で難しそう」と感じている方にも、分かりやすく丁寧に解説していきます。
最後までお読みいただくことで、特定技能制度を使った外国人材の採用・活用の全体像がクリアになるはずです。
特定技能「ビルクリーニング」分野の概要
特定技能制度は、日本の労働市場における人手不足を補うために2019年4月に創設された新たな在留資格制度です。ビルクリーニング分野は、その中でも「特定技能1号」に指定された16分野のひとつで、日常的な清掃業務を担う人材の受け入れが可能となっています。
この制度により、一定の試験に合格した外国人が、最大5年間の在留資格を得て、日本国内の建築物清掃業務に従事できるようになりました。高い専門性を必要とせず、業務内容が比較的明確であることから、導入のハードルも他分野に比べて低く、すでに多くの企業が導入を始めています。
以下では、このビルクリーニング分野の特性や制度背景について詳しく見ていきましょう。
制度の創設背景と目的
特定技能制度の導入背景には、日本全体の少子高齢化と、それに伴う深刻な人手不足があります。特にビルクリーニング業界は高齢の労働者に依存している割合が高く、離職や引退による人材の減少が顕著でした。
政府はこうした課題への対策として、ビルクリーニング分野を含む特定技能16分野において外国人労働者の受け入れを推進し、労働力の安定供給と業界の持続的な運営を目指しています。制度は「即戦力となる技能を持つ人材」の確保を主眼としており、単純労働とは一線を画す形で設計されており、各分野の事業を支えるという明確な方針が示されています。
対象となる建築物や業務内容
ビルクリーニング分野で認められている業務は、主に「建築物内部の清掃作業」に限られます。これは厚生労働省が公表する関連資料で定める範囲であり、たとえば以下のような施設が対象になります。
- オフィスビル
- 商業施設(ショッピングモールなど)
- 医療機関(病院・クリニック)
- 教育施設(学校・保育園など)
主な仕事の内容としては、床のモップがけやトイレ清掃、ゴミ回収などの基本的な清掃作業が中心です。高所作業や屋外作業、機械を使用した特殊清掃は含まれず、比較的安全かつ習得しやすい作業で構成されています。
参考:厚生労働省 ビルクリーニング分野特定技能外国人が従事できる業務について
制度開始以降の推移と現状
2019年の制度開始以降、ビルクリーニング分野における特定技能1号の在留資格を持つ外国人の数は徐々に増加しています。特にミャンマー、ベトナム、フィリピンといったアジア諸国からの受け入れが多く、試験合格者の増加とともに全国各地で導入が進んでいます。
ただし、2020年から2021年にかけては新型コロナウイルスの影響で、試験の中止や入国制限が相次ぎ、一時的に伸び悩みました。その後、2023年以降は回復傾向が続き、2025年現在も政府の受け入れ体制強化や試験実施の拡充により、分野全体が再び注目を集めています。
参考:厚生労働省 ビルクリーニング分野における特定技能制度の状況
日本社会は今、かつてない規模での外国人材の受入れが進んでいます。政府の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」により、新たな在留資格「特定技能」が創設され、多くの企業が外国人材の活用を検討しています。しかし、単に人材を受け入れ[…]
特定技能ビルクリーニング人材の受け入れ要件
特定技能「ビルクリーニング」分野で外国人材を受け入れるためには、企業としての条件を理解し、制度に基づいた適切な準備が必要です。
ここでは、企業側に求められる要件や義務、受け入れに係る手続きや登録支援機関との連携について解説します。
受け入れ企業側の条件と義務
ビルクリーニング業務に外国人を従事させるには、企業が日本人と同等の待遇で雇用契約を結ぶことが求められます。
賃金水準、労働時間、福利厚生等は、日本人社員と差別のない条件でなければなりません。
また、雇用契約書は母国語での説明が必要です。内容を正しく理解していなければ、トラブルの原因になります。労働基準法などの法令順守はもちろん、適切な契約管理体制、そして業界団体が設置する協議会への加入も必要不可欠です。
登録支援機関の役割と選び方
登録支援機関は、特定技能で働く外国人が日本で安心して生活し、就業できるようにさまざまな支援を提供します。その主な役割は以下の通りです。
- 事前ガイダンスの実施(労働条件や必要な情報の説明)
- 出入国時の送迎
- 住居確保や生活インフラ契約のサポート
- 生活オリエンテーション(日本の生活ルールやマナーの説明)
- 公的手続き、医療機関などへの同行
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情への対応窓口の設置
- 日本人との交流促進
- やむを得ない場合の転職支援
- 定期的な面談や課題把握、行政機関への報告
登録支援機関を選ぶ際には、機関自身が適切であり、十分な支援体制が整っていること、そして支援実績や対応言語、費用の明瞭さを比較し、ビルクリーニング分野での対応力や、過去の問題への対応経験があるかを確認しましょう。
参考:出入国在留管理庁 1号特定技能外国人支援・登録支援機関について
外国人材の雇用を検討している企業にとって、特定技能制度は優秀な人材確保の重要な選択肢となっています。しかし、特定技能外国人を受け入れる際には、法令で定められた支援業務を適切に実施する必要があり、多くの企業がその複雑さに頭を悩ませているのが現[…]
特定技能取得のための試験と日本語要件
外国人がビルクリーニング分野で特定技能1号の在留資格を得るためには、2つの基準を満たす必要があります。「技能評価試験の合格」と「日本語能力の証明」がそれに当たります。
この章では、それぞれの詳細な内容と合格後の流れについて詳しく解説します。
試験の種類と出題範囲
技能評価試験は、「公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会」が主催し、筆記と実技の2部構成です。
筆記試験 | 清掃用具の知識、安全衛生、洗剤の使い方など |
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実技試験 | 床面のモップ清掃、トイレ清掃、手順の正確性などを評価 |
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日本国内はもちろん、ミャンマーやベトナムなどの海外試験会場でも定期的に開催されており、試験スケジュールの一覧は公式ホームページに掲載されています。最新情報は定期的に更新されるため、公式リンクからぜひご覧ください。
参考:公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会 特定技能評価試験
日本語力の基準と重要性
日本語能力に関しては、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- JFT-Basic(日本語基礎テスト)合格
JLPTのN4は、「簡単な日本語を理解できるレベル」とされ、業務指示や日常会話の理解が期待されます。
JFT-Basicは、外国人労働者向けに開発された実用的なテストで、会話を中心に評価されるのが特徴です。
どちらの試験も、現場での意思疎通を確保するための最低限の語学力を示す指標となります。
参考:
日本語能力試験公式ウェブサイト 日本語能力試験(JLPT)とは
国際交流基金 日本語基礎テスト(JFT-Basic)
試験合格から就労開始までのステップ
必要な試験に合格した後、外国人は以下の流れで就労へ進みます。
- 雇用先との契約締結
- 在留資格認定証明書の申請(国外在住者)
- 登録支援機関との契約(委託する場合)
- ビザ取得・入国後、就労開始
すでに技能実習2号を修了している場合は、在留資格変更申請を行うことで、スムーズに特定技能へ移行可能です。この方法も有効に活用しましょう。
外国人材の受け入れが急速に拡大する中、人材紹介会社や行政書士の皆様にとって、特定技能1号の在留資格で働くためには日本語試験と技能試験に合格する必要がある、という制度の理解は必須です。特定技能制度は、中小・小規模事業者をはじめとした深[…]
採用・雇用時の注意点とサポート体制
外国人材の採用は、単に人手を補うだけでなく、職場に新たな文化や価値観をもたらす貴重な機会でもあります。しかし、言語や制度の違いから誤解やトラブルが生じやすいのも事実です。
そのため、企業側には雇用時の注意点を押さえた上で、外国人が安心して働き、生活できるような支援体制を整えることが求められます。
このセクションでは、契約面のポイントや生活支援、定着促進に向けた取り組みを紹介します。受け入れ企業向けのセミナーなども参考にすると良いでしょう。
労働条件と雇用契約の注意点
特定技能外国人との雇用契約では、「日本人と同等の待遇であること」が大原則です。賃金、労働時間、休憩、休日、福利厚生などが、同様の業務に従事する日本人従業員と同じ水準である必要があります。
また、契約を締結する前に、雇用契約書を外国語(主に母国語)でも用意し、内容について本人と十分に協議して理解を得ることが重要です。日本語が苦手な人材に対しては、通訳者の同席や簡易表現を使った説明が望まれます。
万が一、労働条件と実態に乖離があった場合、出入国在留管理庁から是正指導や受け入れ停止処分を受けるリスクもあります。誠実な契約と透明な管理体制が、長期的な信頼関係を築く鍵となります。
生活支援とトラブル対応
外国人材がスムーズに日本社会に適応し、職場で安定的に働き続けるためには、生活面でのサポートが不可欠です。
支援内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 住居の確保と契約サポート
- 銀行口座や携帯電話の契約補助
- 医療機関や地域の行政サービスの案内
- 公共交通機関やごみの分別など、日本の生活ルールの説明
- 非常時(災害や病気など)の対応フロー整備
また、トラブルが発生した際には、迅速な相談対応窓口の設置や、多言語対応のマニュアル整備も有効です。登録支援機関との連携を通じて、包括的なサポート体制を構築しておくと安心です。
定着支援と日本語研修の重要性
受け入れ後の定着率を高めるためには、継続的な日本語学習支援と、職場でのコミュニケーション環境の整備が欠かせません。
たとえば、週1回の日本語講座の開催、Eラーニング教材の提供、先輩社員によるメンタリング制度など、日常的に言語に触れる機会を設けることが効果的です。
また、異文化理解を深める社内研修や、職場内での交流イベントの実施も、相互理解とチームワークの向上につながります。これは清掃という業種に限らず、外国人材を受け入れる上で重要なポイントです。
外国人材の「働きやすさ」は、やがて企業の「採用競争力」へと直結します。人材確保に悩む企業にとって、定着支援は第一に考えるべき未来への投資と捉えるべきでしょう。
深刻な人手不足に直面している企業経営者の皆様、外国人材の活用を検討されていませんか?日本の労働力不足は年々深刻化しており、特に製造業、建設業、介護分野では即戦力となる人材の確保が喫緊の課題となっています。2019年に創設された特定技[…]
ビルクリーニング分野における人材確保の成功事例
特定技能制度を活用して外国人材を受け入れた企業の中には、慢性的な人手不足の解消だけでなく、現場の活性化や業務効率の向上を実現している事例も増えてきています。
ここでは、具体的な企業の取り組みと成果、そして外国人材本人の声を通じて、制度活用の実像と可能性をお伝えします。
現場活性化と働きやすさを実現した成功事例
桜十字グループ(熊本県)は、ビルクリーニング分野での人手不足に対応するため、2016年からアジア諸国の若者を受け入れてきました。勤務時間内に日本語クラスを設置し、現場でのコミュニケーションエラーの低減や資格取得支援に注力。さらに、専用寮の整備や宗教に配慮した制服と祈りの部屋の用意、多様な交流イベントも開催しています。
こうした環境づくりの結果、業務の習熟スピードが向上し、社員同士の連帯感もアップ。外国人スタッフからも「日本人の先輩は優しく、安心して働ける」といった声が寄せられ、現場全体の活気や定着に好影響を生んでいます。
参考:JEWELS+ (ジュエルズプラス) 外国人労働者が働きやすい工夫をしている企業事例集【令和6年度更新版】19ページ
外国人採用による現場負担軽減とサービス品質向上の事例
株式会社スーパーホテルクリーンでは、外国人スタッフの採用を行い、現場の負担が大きく軽減されています。例えば、多国籍のスタッフが増えたことで、客室清掃や現場管理などの人手不足が解消され、安定した業務運営が実現しています。さらに、外国人リーダーがチームをまとめ、スタッフ同士のコミュニケーションが活発になることで、現場のトラブルやクレームが減少。特に、XUE ZHENYIさんがリーダーを務める現場では、宿泊者の口コミで「清潔感」の評価が他より高く、現場の品質向上にもつながっています。こうした取り組みにより、従業員の負担分散とサービスレベルの向上が両立されています。
参考:公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会 知っておきたい外国人雇用の今
まとめ|ビルクリーニング業界における特定技能活用の重要性
ビルクリーニング業界は、高齢化と若年層の離職傾向により、深刻な人手不足に悩まされています。その中で、特定技能制度は、即戦力となる外国人材の採用を可能にする、非常に有効な手段です。
本記事では、制度の概要から試験、日本語能力、受け入れ体制、さらには成功事例までを通じて、ビルクリーニング分野における外国人材活用の実態と可能性をご紹介してきました。
特定技能制度は、単なる人材確保の枠を超えて、現場の活性化や職場の多様性推進にもつながります。しかしその一方で、制度理解と支援体制の整備が不十分なまま採用を進めてしまうと、トラブルやミスマッチのリスクも否めません。
だからこそ、正確な情報と実践的な準備が何より重要です。受け入れにあたっては、登録支援機関との連携、日本語教育の整備、生活支援の仕組みづくりを含めた「定着までを見据えた採用戦略」が求められます。
未来のビルクリーニング業界を支えるのは、国籍を問わず、安心して働ける現場です。特定技能制度をきっかけに、その一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
外国人材の雇用でお困りのことがありましたら、ぜひお気軽に「人材カフェ」の無料相談をご利用ください。企業様向けに様々な職種の外国人材をご紹介しています。