近年、日本では多くの産業分野で慢性的な人手不足が深刻な状況となっており、とりわけ介護・建設・農業・外食産業・製造業などの現場では、必要な人材を確保できないことが経営上のリスクとなっています。少子高齢化による労働人口の減少が背景にあることは言うまでもありませんが、地方の中小企業にとっては「人がいない」という現実に日々直面している状況です。
こうした中で注目されているのが、外国人労働者の採用によって現場の即戦力を確保するという選択肢です。なかでも2019年4月に新たに創設された「特定技能制度」は、日本において外国人が正規に就労することを可能にする新しい在留資格制度の形で、多くの企業の関心を集めています。特定の業界においては特に重要な制度として関連付けられています。この制度は、従来の技能実習制度とは異なり、「人材育成」ではなく「労働力確保」を目的としており、一定の技能と日本語能力を有する外国人を、即戦力として採用できる仕組みとなっています。
とはいえ、特定技能制度を実際に活用しようと考えたとき、企業側にはさまざまなハードルが立ちはだかります。例えば、以下に示すような具体的な疑問に対する情報が複雑かつ断片的で、何から手を付けるべきか迷う担当者も少なくありません。「どのような在留資格があるのか」「どの手続きを踏めばよいのか」「採用後にどのような支援が必要なのか」といった点です。
本記事では、そうした企業の不安や課題に応えるために、特定技能制度の概要、在留資格の違い、採用に必要な手続き、支援体制、他制度との比較、費用や今後の制度動向まで、体系的かつ実務的な視点から解説してまいります。制度を理解するだけでなく、実際に活用するために必要な視点や行動まで落とし込んでおりますので、外国人材の採用をご検討されている企業経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
特定技能とは|制度の概要と背景
特定技能制度は、深刻化する人手不足に対応するために2019年に導入された、新しい在留資格制度です。これによって、日本では一定の技能と日本語能力の水準を満たした外国人労働者が、特定の産業分野で「即戦力」として働くことが可能になりました。
この制度は従来の「技能実習制度」とは目的や仕組みが大きく異なり、より実務的な人材確保を目的としています。ここでは、制度創設の背景から、対象となる分野、制度の特徴についてわかりやすく解説します。
制度創設の背景と日本の人手不足問題
日本では長年にわたり、少子高齢化による労働人口の減少が深刻な課題とされてきました。特に現場作業を中心とした産業では若年層の人材確保が困難となり、企業活動に支障をきたすケースも増えています。
こうした危機感を背景に、単なる人材育成制度である「技能実習」では対応しきれない現実的な人材不足を補う手段として、2019年4月、「特定技能制度」が創設されました。これは従来の技能実習生の受け入れとは異なる事業目的を持つものです。この制度は、即戦力として働ける外国人材を制度的に受け入れることを可能にする、新たな在留資格枠です。
制度の目的と受け入れ可能な分野・職種
特定技能制度の最大の目的は、「一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を、即戦力として労働現場に迎え入れること」です。従来の制度とは異なり、単なる研修ではなく実践的な業務に従事できることが制度設計の根幹にあります。制度が対象とするのは、介護、農業、外食業、製造業など深刻な人手不足が見込まれている特定産業の16分野です。これらの分野は、いずれも国内人材の確保が難しいとされ、制度の導入によって外国人が日本で仕事に従事できる範囲が拡大しました。特に一部の職種では、新たな外国人労働者が活躍できる場が広がっています。
加えて、各分野には定められた「職種」や「作業内容」があり、外国人が従事できる業務内容も詳細に定められています。この点は、申請手続きや在留資格の審査時に非常に重要な要素です。具体的な疑問点も多く発生するため、これらを申請内容に必ず含む必要があります。申請内容は細部にわたって確認されます。
制度の特徴と従来制度との違い
特定技能制度の最大の特徴は、制度の主目的が「労働力の確保」であるという点にあります。これまで多くの企業が活用してきた「技能実習制度」は、本来、開発途上国への技術移転を目的とする制度であり、実質的には技能実習生を長期にわたって即戦力として活用するには不向きな側面がありました。
これに対し、特定技能制度は労働力確保を前提に設計されているため、雇用契約に基づいて外国人がフルタイムで働くことが可能です。また、試験に合格することを条件とするため、一定のスキルを有する人材を採用できる点も、企業側にとっては大きなメリットです。
さらに、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類の在留資格があり、これらは別の類型に分かれ、それぞれで在留可能な期間や家族帯同の可否、就労内容などに違いがある点も特徴の一つです。この点については、次章で詳しく説明いたします。
外国人材の受け入れが急速に拡大する中、人材紹介会社や行政書士の皆様にとって、特定技能1号の在留資格で働くためには日本語試験と技能試験に合格する必要がある、という制度の理解は必須です。特定技能制度は、中小・小規模事業者をはじめとした深[…]
在留資格の種類|特定技能1号と2号の違い
日本で外国人材を雇用する際には、必ず「在留資格」(いわゆるビザ)という枠組みの中での就労が必要になります。特定技能制度においては、外国人が就労を認められる在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」の二種類が設けられており、それぞれで就労の条件や期間、家族の帯同可否などが異なります。
この章では、それぞれの在留資格の概要と特徴、両者の違いについて詳しく見ていきます。企業が外国人を受け入れるにあたって、どちらの資格が自社のニーズに合っているかを判断するための基礎知識として、必ず押さえておきたいポイントです。
特定技能1号の特徴と就労条件
特定技能1号は、制度創設当初から導入されている在留資格で、基本的には「一定の技能」と「日本語能力」を有する外国人が対象です。介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業といった特定産業の16分野での就労が可能とされており、在留期間は通算5年が上限で、1年・6か月・4か月単位での更新が可能です。ただし、家族の帯同は原則として認められておらず、単身での就労を前提とした制度設計となっています。
この資格を取得するには、分野ごとに設定された技能試験である「特定技能評価試験」に合格するか、または同じ分野の「技能実習2号を良好に修了している」実績が求められます。日本語の能力に関しては、一般的に日本語能力試験(JLPT)N4以上の水準を満たしていることが求められます。この程度の日本語能力を持つ外国人を対象とするため、特に、ベトナムなど海外からの申請者にとっては、現地の試験制度を把握し、対策を講じることが重要となります。試験の免除要件についても、法務省の発表などを随時確認し、利用できる場合は積極的に活用すべきです。
特定技能2号の特徴と長期就労の可能性
特定技能2号は、特定技能1号よりも高度な「熟練した技能」を持つ外国人材を対象とした在留資格で、より専門性の高い職務や現場リーダー、管理者レベルの業務に従事することが想定されています。
2025年時点では、特定技能2号の受け入れが可能な分野は、建設業、造船・舶用工業、ビルクリーニング、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、そして素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業の計11分野となっています。
この制度の最大の特徴は、在留期間に上限がなく、一定の条件を満たせば配偶者や子どもの帯同も認められている点です。これにより、長期的な雇用や人材の定着を前提とした制度設計となっており、企業にとっては熟練人材を安定的に確保するための重要な手段となっています。
特定技能2号の取得には、1号よりも高い専門性や実務経験を証明するための試験に合格する必要があり、多くの場合、特定技能1号からの移行が前提となっています。
両資格の違いとキャリアパスとしての関係性
特定技能1号と2号は、段階的なキャリアステップとして位置づけられており、1号で一定期間の就労を経て、スキルや実務経験を積んだ後に2号への移行が可能になります。これら二つの資格の区分を理解することは、外国人材のキャリアパスを考える上で相当重要となり、企業との関係を深める上でも重要です。
企業にとっては、まず1号での雇用から始め、必要に応じて長期雇用にシフトしていくという柔軟な運用ができるのが大きな魅力です。特定技能制度を活用するにあたっては、単なる一時的な労働力としてではなく、段階的にスキルアップを促しながら、長期的な戦力として育てていく視点が重要となります。
深刻な人手不足に直面する日本の企業にとって、外国人材の活用は喫緊の課題となっています。特に製造業、建設業、介護分野などでは、即戦力となる人材の確保が企業の存続に関わる重要な経営課題です。2019年4月に創設された特定技能制度は、これ[…]
外国人採用の流れ|企業が行うべき手続きと準備
特定技能制度を活用して外国人を採用するには、制度に基づいた手順を正確に理解し、段階的に準備を進める必要があります。日本人を採用する場合とは異なり、在留資格の申請や生活支援体制の整備など、特有の要件や手続きが求められるため、事前の情報収集と社内体制の構築が不可欠ですし、細やかな注意点への対応も必要です。
この章では、企業が外国人材の採用を進める際に、どのような確認事項と実務ステップがあるのかを順を追って解説します。
自社が対象分野かどうかを確認する
まず最初に行うべきは、自社の業種・業務内容が特定技能制度の対象であるかどうかを確認することです。制度の対象となるのは、介護、建設、農業、外食業、製造業など、深刻な人手不足が発生している特定産業の16分野に限られています。
さらに、各分野には就労可能な「職種」や「作業内容」が定められており、具体的な業務がこの範囲に含まれていなければ、在留資格の認定は行われません。受け入れの可否を事前に確認するには、公的機関である出入国在留管理庁が公開している「分野別運用方針」や「対象業務一覧」を参照するのが有効です。必要な資料はウェブサイトからダウンロードできる場合もありますので、そちらもご覧ください。
制度に適合していることが明らかになれば、次のステップとして、実際の採用準備を行っていくことができます。
参考:出入国在留管理庁 「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針・分野別運用方針」
受け入れ体制の整備と社内対応の準備
対象分野であることを確認したら、次に求められるのは「受け入れ体制の整備」です。特定技能制度において、外国人材が就労・生活の両面で安心して暮らせる環境を企業側が整備することが求められています。
たとえば、職場での日本語対応、安全衛生教育、業務マニュアルの整備、住居の確保、生活相談窓口の設置など、外国人が日本で働く上で必要となる支援は多岐にわたります。また、既存の従業員への教育やマインドセットも重要です。外国人との共生を前提にした職場づくりが、定着率の向上やトラブルの未然防止につながります。これは人材を確保する上で非常に重要な要素であり、総合的な取り組みが求められます。
登録支援機関との連携と支援体制の確保
制度上、受け入れ企業は「支援計画」を策定し、外国人に対する生活・就労支援を提供する義務があります。支援内容は、生活ガイダンス、日本語学習支援、住居の確保、入出国のサポート、定期的な面談など多岐にわたり、専門性と手間を要します。
こうした業務を自社で対応することが難しい場合は、「登録支援機関」を利用することで、支援の質とコストのバランスを保ちつつ、制度を円滑に活用することが可能になります。
雇用契約と在留資格認定手続き
外国人の採用が内定した後は、雇用契約の締結と、出入国在留管理庁への在留資格認定証明書交付申請が必要です。この申請には、雇用契約書や支援計画書、企業情報などの資料を整えて提出します。これらの提出書類に不備がないよう、事前に十分な準備を行うことが重要ですし、正確な届出も不可欠です。この手続きにはいくつかの注意点が存在します。
注意したいのは、雇用契約の内容を外国人本人が十分に理解できる言語で説明しなければならないという点です。翻訳や通訳を通じて母語で内容を伝えることが推奨されており、契約の透明性が重視されます。
書類に不備があると審査が長引いたり、不許可になるケースもあるため、必要に応じて行政書士などの専門家や支援機関に相談しながら手続きを進めると安心です。
就労開始後の継続的なフォロー体制
在留資格が認定され、外国人材が実際に就労を開始した後も、企業の責任は続きます。生活面での支援や職場での定期的な面談、相談対応など、就労後のフォロー体制がその後の定着に直結します。
また、就労状況に変化があった場合は、在留資格の変更・更新などの手続きも必要になるため、制度への継続的な理解と対応体制が不可欠です。外国人が職場や地域に馴染み、長く活躍してもらうためには、受け入れ後のサポート体制こそが成功の鍵です。
「少子高齢化による人手不足が深刻化し、事業継続が危うい…」「外国人材の雇用を検討しているが、就労ビザの申請は複雑で何から手をつければいいのかわからない」「不法就労のリスクや、雇用後の管理についても不安がある」もしあなたがこの[…]
採用・支援にかかる費用と相場|企業負担はどれくらい?
外国人材の採用に関心を持つ企業が、最も気になる点のひとつが「実際にどれくらいの費用がかかるのか」というコスト面です。特定技能制度を活用した外国人雇用には、通常の人材採用とは異なる費用構造が存在します。初期費用だけでなく、継続的な支援にかかるコストや、外部委託に伴う報酬なども含めて考慮する必要があります。
この章では、特定技能人材の採用・定着に必要な費用の内訳と相場感、費用対効果を高める工夫、さらには活用できる支援制度や助成金の有無についても整理して解説します。
初期費用(登録支援機関の活用、申請書類準備、翻訳費用など)
特定技能人材の採用においては、雇用開始前の準備段階から一定の初期費用が発生します。これには、在留資格認定証明書の取得申請書類の作成、翻訳、支援計画の立案、本人との雇用契約締結に必要な書類整備などに伴う費用が含まれます。
登録支援機関や人材紹介会社などが公開している情報によれば、国内在住の外国人を採用する場合、初期費用はおおむね1人あたり20万円から50万円程度が一般的です。一方、海外から外国人を採用する場合は、これに加えて送り出し機関への手数料や渡航費、住居準備費用などが必要となるため、初期費用は1人あたり30万円から100万円程度になるケースが多いとされています。
実際の金額は、利用するサービスや受け入れ人数、契約内容によって異なりますので、詳細は各サービス提供者にご確認ください。
継続的な支援費用と教育・通訳体制のコスト
外国人材の採用は、就労開始後にも継続的な支援が必要です。登録支援機関を活用する場合は、月額で定められた支援料が発生するのが一般的で、相場としては1人あたり月額2万円から5万円前後が目安です。支援内容には、生活相談、日本語教育、定期面談、報告業務などが含まれます。
また、企業が自社内で支援を実施する場合でも、通訳スタッフの配置、業務マニュアルの翻訳、日本語教育研修などに関わる人件費や外部サービス費用が必要です。これらの費用は表面上見えづらいものの、長期的な職場定着を図るうえでは重要な投資です。特定のサービスが不要であれば、その分のコストは削減可能です。
費用対効果と助成金・補助制度の有無
外国人材の採用にかかる費用は確かに小さくありませんが、それによって得られる即戦力人材の確保や人手不足の解消という成果を考えれば、費用対効果は高いと評価する企業も増えています。特に、短期間で定着せずに離職してしまう国内人材と比べ、適切な支援を行いさえすれば、長期雇用が見込める外国人材は、安定した戦力として期待できます。
また、地域によっては自治体が提供する外国人受け入れ促進のための補助制度や、厚生労働省・出入国在留管理庁などが案内する助成金制度を活用できる場合もあります。たとえば、職業訓練や日本語教育に対する補助、支援体制整備にかかる経費の一部補填などが該当します。これらは外国人受け入れ促進を目的とする会の支援に関連する場合があります。
ただし、これらの制度は年度ごとに予算や要件が変動するため、都道府県・市区町村、関係機関のウェブサイトで最新情報を確認することが重要です。
参考:
厚生労働省 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
出入国在留管理庁 外国人受入環境整備交付金について
支援体制の整備|外国人が安心して働くために必要なこと
特定技能制度では、外国人労働者の受け入れにあたって、就労だけでなく生活面も含めた「支援」が企業に義務づけられています。文化や言語の壁がある中で、外国人が職場や地域社会に安心して定着するためには、受け入れ企業が果たすべき役割は非常に大きいといえるでしょう。
この章では、外国人材の安定就労に欠かせない支援体制の具体的な内容と、その整備のポイントについて解説いたします。生活支援、就労支援、そして社内の理解促進という3つの観点から、制度上の義務と現場対応の実際を見ていきます。
生活支援と制度上の義務
特定技能制度では、外国人が日常生活を送る上で直面するさまざまな困難を軽減するため、企業が一定の生活支援を提供することが義務づけられています。たとえば、住居の確保や生活ルール(ごみ出し、交通マナー、災害時の行動など)の説明、銀行口座や携帯電話の契約支援、日本語で書かれた公共文書の読み方サポートなどが含まれます。
これらの支援は、外国人が社会の一員として安心して暮らす基盤となるものであり、定着率を高めるうえでも非常に重要ですし、制度上、文書で定めた「支援計画書」に記載された内容に従って提供される必要があるため、事前の計画と体制づくりが求められます。
就労支援と日本語能力への対応
生活支援に加えて、就労面での支援も欠かせません。多くの外国人材にとって、日本の職場文化や報連相(報告・連絡・相談)の習慣は馴染みのないものです。こうしたギャップを埋めるためにも、業務開始前に就業規則や労働条件、安全衛生ルールなどを母語で丁寧に説明し、理解を深めてもらうことが必要です。
さらに、日本語能力が十分でない場合には、外国人労働者が職場でのコミュニケーションに支障をきたすこともあります。そのため、職場内に日本語能力を持つ担当者を配置したり、外部の日本語教育プログラムを紹介したりするなどの工夫も効果的です。
支援の手間を惜しまないことが、外国人材がスムーズに業務に馴染み、自信を持って働ける環境づくりにつながります。
トラブル防止と社内理解の推進
外国人材の定着を阻害する要因のひとつが、受け入れ側である企業・職場内での「理解不足」です。言語や文化の違いに対する無理解が誤解や摩擦を生み、結果的に離職やトラブルへと発展するケースも見られます。
そのため、外国人を受け入れる前には、社内向けに研修やガイドラインを設けることが望まれます。具体的には、異文化理解に関する研修、簡易な挨拶やコミュニケーションフレーズの共有、トラブル事例の紹介と対応方法の共有などです。
また、外国人本人に対しても、相談しやすい雰囲気づくりや、定期的な面談を通じたフォローアップが重要です。双方の理解と信頼関係が深まることで、職場全体の雰囲気も良好になり、結果として人材の安定定着に結びつきます。
技能実習との違い|制度の目的と内容を比較解説
外国人材の受け入れ制度には「技能実習制度」と「特定技能制度」という、似て非なる2つの枠組みが存在します。どちらも外国人が日本国内で働くことを可能にする制度ではありますが、制度の目的・設計思想・対象分野・在留資格の扱いなどには本質的な違いがあります。
ここでは、両制度の特徴を比較しながら、特定技能制度がどのような課題に応えるために設計されたのか、また企業が制度選択を誤らないために押さえておくべきポイントについて整理して解説します。
制度の目的と導入背景の違い
技能実習制度は1993年に創設され、「開発途上国への技能移転」を主な目的とした制度です。つまり、あくまでも実務を通じて日本の技術・知識を学び、帰国後に母国で活かしてもらうことが制度本来の趣旨とされています。
例えば、海外からの技術者の受け入れは、2022年時点でも主要な施策の一つでした。そのため、制度上は「研修・教育」に重きが置かれており、労働力確保を直接の目的としていない点が特徴です。この理由は制度創設時の目的と深く関連しています。これは別の制度と比較すると明確です。
一方、特定技能制度は2019年に創設され、日本国内の深刻な人手不足に対応するための制度として明確に「労働力確保」を目的としています。この違いは、制度設計の根本を左右しており、企業側のニーズにも大きく影響します。
在留資格・就労範囲・期間の違い
技能実習制度では、在留資格「技能実習1号、2号、3号」に分類され、原則として1年間から最大5年間の滞在が可能です。ただし、就労可能な業務範囲は限定的であり、あくまで技能の習得・実習という建前があるため、実際の業務内容と制度目的の乖離が問題視されることもあります。多くの技能実習生が同じような課題に直面しています。制度の趣旨から外れた運用が問題となり、制度そのものが終了する可能性も議論されています。
これに対して、特定技能制度では「特定技能1号」「特定技能2号」という在留資格が設けられ、1号では最長5年、2号では在留期間の制限がなく、長期定着や家族帯同も認められています。しかも、実務に必要な一定の技能や日本語能力を有していることが前提であるため、より即戦力としての活用が可能です。工業製品の製造などの分野も含む対象範囲の拡大により、多様な外国人労働者の受け入れが期待されています。
支援体制・管理体制の違い
技能実習制度では、受け入れ企業が監理団体(組合など)を通じて外国人実習生を受け入れるのが一般的です。監理団体が実習計画の作成や実習状況の確認を行うなど、制度全体を第三者が管理・監督する仕組みとなっています。
一方、特定技能制度では、企業が直接雇用主となり、受け入れや支援の責任を直接負う形式です。生活支援や日本語教育支援などを企業自身で行うか、または「登録支援機関」に委託することで支援義務を果たします。つまり、特定技能制度の方が、企業に求められる責任や主体性が大きい反面、管理体制が柔軟で、外国人との関係性も密接になるという利点があります。
このように、制度の目的・構造・支援体制には明確な違いがあるため、企業は採用目的や人材戦略に応じて、制度の選択を慎重に検討する必要があります。
最新の制度変更・今後の見通し|2025年の特定技能制度
特定技能制度は、2019年の創設以降、社会的な役割を拡大し続けており、制度内容も時代の要請に合わせて継続的に見直されています。特に2025年4月1日には、省令改正による重要な運用変更が実施されました。これにより、企業や登録支援機関が守るべき手続きや支援体制、地方自治体との連携など、制度運用の実務が大きく変化しています。
この章では、企業が最新動向を把握し、今後の人材戦略に活かすために、2025年時点の制度変更のポイントと、政府の方針や見通し、企業としての備えについて整理して解説します。
2025年の制度改正・運用変更のポイント
2025年4月1日の省令改正では、以下のような主な変更点が実施されています。
変更点 | 概要 |
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届出の簡素化・頻度変更 | 企業が提出する定期届出は、従来の四半期ごとから年1回に統合されました。 |
地方自治体との連携強化 | 特定技能外国人の雇用時、企業は「協力確認書」を地方自治体に提出することが義務化され、自治体から協力要請があった場合は協力する責務も明記されました。 |
支援計画の基準追加 | 1号特定技能外国人支援計画には、地方公共団体が実施する共生社会の施策を踏まえることが新たに要件として加わりました。 |
随時届出の新設 | 在留資格許可後1か月以内に就労を開始しない場合や、1か月以上活動できない場合など、新たな随時届出義務が追加されました。 |
提出書類・様式の変更 | 参考様式や提出書類の一部が新たなものに変更されています。 |
また、今後は「倉庫管理」「廃棄物処理」「リネン供給」など新分野の追加も決定しており、2027年から制度運用開始予定です。
政策動向と今後の見通し
日本政府は、特定技能制度を中長期的な外国人材受け入れの柱と位置づけ、今後も制度の安定運用と拡充を進める方針です。産業構造の変化に応じた分野追加や、試験制度の見直し、日本語教育支援の強化などが引き続き議論されています。地方自治体や関連団体との連携も、制度運用の重要なポイントとなっています。
企業が今から備えるべきポイント
制度の運用変更や分野拡大により、外国人材の採用に乗り出す企業は今後さらに増加が見込まれます。早い段階で最新の制度内容を理解し、受け入れ体制や支援計画、地方自治体との連携体制を整えることが、採用競争での優位性につながります。特定技能2号へのキャリアパス設計や、定期的な法改正情報のチェックも引き続き重要です。
参考:
出入国在留管理庁 令和7年4月1日施行の省令改正について
出入国在留管理庁 特定技能制度における運用改善について
おすすめの対応|特定技能制度を活用した人材戦略
特定技能制度は、単なる人手不足の応急処置ではなく、企業にとって中長期的な人材確保の手段として大きな可能性を持っています。しかしその一方で、外国人材の採用には制度理解だけでなく、経営的な視点や長期的な計画性も必要です。
この章では、特定技能制度を効果的に活用するために、企業がとるべき戦略的な対応を3つの観点から整理します。制度を単なる「雇用手段」にとどめず、「人材投資」として活用していくためのヒントをご紹介します。
中長期的な人材確保に向けた視点
特定技能制度を成功させるためには、短期的な人手補充だけでなく、外国人材を会社の戦力として継続的に育成・定着させる視点が欠かせません。特定技能1号で採用した人材を2号へとステップアップさせることで、長期雇用が可能となり、現場でのノウハウ蓄積や人材の安定稼働が実現します。
そのためにも、採用初期の段階から「5年後、10年後の育成計画」を描いておくことが重要です。教育体制、職場内のメンター制度、キャリア形成の仕組みなどを整備し、外国人材が目標を持って成長できる環境をつくることが、会社の持続的な競争力につながります。これは総合的な取り組みが求められます。
他制度(技術・人文・国際等)との併用検討
外国人材の採用制度は特定技能だけではありません。高度人材を受け入れるための「技術・人文知識・国際業務」や、留学生からの「在留資格変更」、さらにはインターンシップ制度や高度外国人材ポイント制度など、複数の選択肢が存在します。
企業としては、それぞれの制度の特徴を把握し、業務内容や人材要件に応じて適切な制度を組み合わせることが、最も効率的な人材活用につながります。たとえば、製造現場では特定技能、事務系では技術・人文といったように、部門ごとに異なる制度を柔軟に使い分ける企業も増えてきました。異なる事業分野や職種に応じて、別の制度を柔軟に活用することも有効です。各部門に所属する人材の特性も考慮すると良いでしょう。
また、制度間の移行(たとえば、技能実習→特定技能、留学生→特定技能)についても制度的に整備されているため、採用前の段階からその可否や条件を確認しておくことが重要とます。
経営課題と制度選択の整合性を考える
制度の選択において最も大切なのは、現場の人手不足を「どう解消したいのか」という経営的な課題意識と、制度の特性が一致しているかどうかです。人手不足の理由は何なのか、具体的な課題を明確にし、どのような質問を投げかけ、どの程度の即戦力化を期待するのかを明確にすることが、関係性の構築に繋がります。
また、外国人材の採用・育成・管理は企業にとって初めての経験であることも多く、最初から完璧な運用は難しいのが実情です。だからこそ、外部の専門家や支援機関、他社の事例などを活用しながら、社内の制度理解を深め、少しずつ制度活用を広げていく姿勢が大切です。
特定技能外国人採用|まとめ
本記事では、特定技能制度の概要から在留資格の種類、採用までの手続き、支援体制の整備、技能実習制度との違い、費用、そして最新の制度動向に至るまで、企業が知っておくべきポイントを体系的にご紹介しました。
少子高齢化が進む中で、特定技能制度は今後ますます重要な外国人材受け入れの柱となっていくことが予想されます。制度の目的は単なる労働力補填ではなく、日本社会の一員として外国人が安心して働き、生活できる環境を整えることにあります。企業にはその受け皿となる責任と、長期的な視点での人材戦略が求められます。これは、外国人労働者を確保する上で不可欠です。
特定技能制度は、制度設計そのものが明確かつ実践的である一方で、実務には専門的な知識や綿密な準備が必要です。しかし、制度を正しく理解し、丁寧な対応を重ねていくことで、企業にとってかけがえのない人材を迎えるチャンスにもなります。
人手不足という構造的課題に立ち向かう手段として、特定技能制度の活用は有力な選択肢です。まずは一歩を踏み出し、自社にとって最適な人材確保の方法を模索していくことをおすすめします。
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